同時進行リサーチ・プロジェクト
ダービーのカップ・シェイプに新たな発見はあるか?
18世紀の英国磁器について勉強していて疑問に思ったことを調べていくと、実は従来の研究ではまだ判明していない事柄だった、と分かることがあります。例えば、ダービーのカップの形にはいくつもの種類がありますが、それらがどのような順序で導入されて、いつ頃まで製造されたのかについて細かく調査した例は(私の知る限り)ありません。図柄についてはかなり研究が進んでいるのと大分状況が異なります。
一例をあげると、1776年6月21日(注1)に王妃シャーロット(国王ジョージ3世の妻)がダービーのロンドン店舗を訪問しているのですが、その際に購入した製品の中に以下のようなものが含まれています。
A Compt Set of Tea China New embossed blue & Gold 49 pieces £7 7 0 (注2)
(完全な磁器ティーセット、新しい浮彫り、青と金彩、49点、7ポンド7シリング)
ティーセットの揃い(全49点)ですが、"New embossed"(新しい浮彫り)とあるところが形状面についての記載です。"blue & Gold"というのは絵付けの特徴ですね。これはダービー社の販売記録として残っているものですが、こういう記録を見ると、いったいどんな浮彫りだったのか、「新しい」というからには導入されたばかりのものだったのか、など俄然興味が出るわけです。
というわけで、今回は趣向を変えて、ダービーのカップ・シェイプに関する調査レポートを同時進行形式で読んでいただこうと思います。何回かに分けて書き進めていくつもりです。公開形式にするのは、調査経過の記録を残すのと、自分への尻たたきのためです。途中で挫折してしまう可能性もかなりありますが、もしそうなってしまったときはご容赦のほど。なお、調査対象としては、当時の記録が多く残っている1770〜1790年頃のカップ(コーヒーカップ、ティーカップ、ティーボウルなど)に重点を置くことにします。
(注1)この2週間後にはご主人が「米国」という大植民地を失うという切迫した時期なのに、奥さんは優雅にお買い物などしていてよかったのでしょうか、などと言うのはここではよしましょう。
(注2)A.P. Ledger "The Bedford Street Warehouse and the London China Trade 1773-1796" pp.82-83
William Bemrose "Bow, Chelsea, and Derby Porcelain" pp.89-90
第1回 「新しい浮彫り」の正体は? 第2回 カップ・シェイプの名称を洗い出す 第3回 パターン・ブックはシェイプ・ブックでもあるか? 第4回 一気の解決なるか 第5回 ハミルトン・シェイプの謎 第6回 (再び)「新しい浮彫り」の正体は?
(2013年7月掲載開始)